(21)プライベート・バンキングの仕事
永住権が承認されてからしばらくして2つ目の朗報が届いた。
8月に人事と電話面接を欧州系のプライベート・バンキングからファイナンス部で空きポジションが出たが興味はあるかとの連絡を受けた。
仕事内容を確認すると経験のない仕事だったが、いままでの経験があればできそうな内容だった。さっそく仕事を受けたいとの連絡をすると、すぐに面接を受けることになった。
面接は今回も電話面接で合計2回やることになった。
今回の面接対策は2つに絞った。
まずはプライベート・バンクの仕事をざっくり理解して面接の中で細かい仕事内容を質問をしながら理解していくこと。そして、自分がいままでやってきた仕事を簡潔に説明できるようにすることだ。
経験がない仕事を面接でわかったように、できるように面接で言うというやり方もあるが自分のスタイルではない。それよりも仕事の基本情報を頭にいれてわからないところを質問して理解していく方が相手も信頼してくれる。あとは出たとこ勝負だ。
幸いにも面接官の1人は私が以前やっていた仕事を経験していた。彼女の質問も当然鋭くなるのだが、こっちも20年以上それで飯を食ってきている。面接官もわたしの回答に納得してくれているようだった。
2人目の面接官は穏やかな人物だった。面接では人が大量にやめてしまって大変だということを聞いたが、こちらも辛い経験なら山ほどしてきた。いまさらもうひとつ加わってもたいした話ではない。
面接ではキャリアアップは考えているのかという質問も受けた。
私は正直に
「考えていません。この仕事を3年やって引退します。」
と答えた。
正直に答えたのにはふたつ理由があった。
ひとつはそれが本当のことだということ。もうひとつは自分を雇ったとしても、管理職側が次のステップの心配をしなくていいからだ。外資系金融にはいってくる人たちはだいたい積極的に昇進の希望もつたえてくる。一方でシンガポールの金融業界の縮小のせいもあってか昇進させるのが以前にくらべて難しくなっている。しかし私を雇った場合、その心配はないというのは管理職側にとって精神的な負担が少なくなる。
面接を終えてから2週間後、3月が終わりを迎えようとしていた頃、わたしのところに採用通知が届いた。こうしてもうひとつの課題も完了した。